俺の日常の中でもちょっと特殊だった一日

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「あー、なんだそのー」 父さんの顔が若干上を向いた。 目が泳いでいる。 「あー、そのー、あー」 父さんの顔が完全に上を向く。 そしてゆっくりと立ち上がる。 「ちょっとトイレ行ってくる」 父さんが小走りでリビングを出て行った。 俺たちはなにも言わずにそのまま椅子に座っていた。 「ったく……」 とため息を着くように言って、 母さんが椅子から立ち上がる。 そして母さんは4人がけのソファーの真ん中に座り、自分の両端の席を両手でポンポンと叩く。 「いやいや、お袋。 俺たちもういい歳だぞ?」 「いいから。私もたまには子どもに甘えられたいし甘えたいの」 真琴がこっぱずかしそうに顔をかく。 俺はそんな真琴を無理矢理引っ張って母さんの左側の席に座らせて自分は右側の席に座る。 母さんが両手で俺たちの頭を持って自分の方に抱き寄せる。 俺と真琴の頭がひっつく。 「や、やめろ!恥ずかしい!」 と抵抗する真琴。 でもその力は小さい。 俺が無理矢理引っ張った時も力は小さかった。 母さんが俺たちの頭の間に顔を埋める。 すると真琴の抵抗も完全になくなった。 体の力が抜けていくのを感じる。 同時に一日の疲れが一気に体にくる。 俺は頭に水滴が染み込むのを 感じながらゆっくりと目を閉じた。
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