プロローグ

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『いまだ、ほら急げ!』 このタイミングで全員のインカムに指示が飛んだ。舞台袖から流れ落ちるドライアイスの煙をかき分け、七台のテレビカメラがリハーサル通りの配置につく。 今秋特別番組のオープニングシーンだ。失敗は許されない。現場に緊張感が走る。 この番組は、科学者をはじめとした有識者立会いのもと、未知の現象を検証しようというものである。定期的にゴールデン帯で放送され、視聴率も良く、一定層の支持を得る人気の企画だ。 そこで今回、米国で話題の超能力者、グスターヴァス・アスキスに白羽の矢が立ち、この度の初来日となったのである。  その一部始終は、全国同時に生中継されている。 静まり返る観客。パイプオルガンはいつしか地を這うような重低音に演出を変え、司会者はマイクを持った。 「女性は今、一から百までの任意の数字を思い浮かべています。アスキスはそれを読み取ろうとしているのです」 これはアスキスの最も得意とするところ。いわゆる読心や透視、テレパシーとも呼ばれるものである。 「これはフィクションに分類される創作にしか有り得ない現象。もしくは太古の昔、限られた人間のみが持っていたとされる超自然的能力。噂では長年に渡り超感覚的知覚の研究を重ねている大国もあるという。そしてFBIが認めたとされる、このアスキスの超能力――」
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