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「今日はこの館にお客様が来るのよ」
鳥居彩子博士は鳥籠に囁いた。
籠の中からイエローグリーンのインコが博士の顔をじっと見つめていた。
「オキャク、オキャクハトリ?」
インコはそう声を発した。
「いいえ、人間よ。鳥はあなた、お客様は人間。鳥と人間は違うの」
博士は歌うように呟いた。
そうして、博士は指を籠の隙間に差し入れてインコの頭に触れた。
「ワタシハトリ? ママハ、ママハ、トリナノ?」
それを聞くと博士は静かに微笑んだ。
「どうでしょうね。私も鳥に成りかけているのかも知れないわ」
博士はすっと窓に寄って、ガラスを押し開けた。
「鳥なら楽しいでしょうね。空を自由に飛べるんですもの」
窓の外には、満開の桜の木がこぼれんばかりにその美を誇っていた。
「でも、あなたたちは空を飛ぶことも出来ないわね。そんな籠の中にいるんだもの」
桜の花びらが風に散って室内に入りこんでくる。
室内に迷い込んだ花びらがひとつ籠のインコへと引き寄せられていった。
「でも、私は籠の中の鳥が一番好きよ。大空を待っているよりも、籠の中でジッとしている姿の方がずっといいわ」
細い指が籠の中の花びらを軽く弾いた。
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