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「鷲尾さんは、何をしている方なんですか?」
私はふと尋ねた。
別にこの鼻の大きな男に関心があったわけではない。ただ話が途切れてしまうと居心地が悪いのだ。
「俺かね。お嬢さんは俺が何の仕事をしてると思う?」
鷲尾は逆に聞いてくる。
うーん、私は黙ってしまう。
鷲尾の外見はギャング映画の悪役のように見えた。
それも、ヘマばかりして観客を笑わせる小悪党の方だ。
鷲尾の大きな鼻と、安っぽい背広、趣味の悪いネクタイはそんな胡散臭い雰囲気を漂わせていた。
でも、そんなことさすがに本人には言えないな。
「手品師かなんかだろ」
私の隣でずっとブスッとしていた探偵が呟いた。
あの格好でほうづえをついて何やら渋い顔をしているから、さながら苦悩するソクラテスのようだ。
「ご名答、確かに俺はマジシャンだ。旦那、なんでわかったんです?まさかの名探偵だな」
そう言って、鷲尾は次々にトランプを手のひらから溢れ出させる。
「そうだよ。僕は名探偵だからわかったんだ」
探偵は鷲尾の手から零れたトランプを拾うと不機嫌に言った。
「手のひらの間接のところに特有のタコが有るし、第一トランプを仕込んでるのがバレバレだった。大方パッとしない地方回りだろ」
探偵はトランプを指でクルクルと回す。
アチャー、探偵はご機嫌ナナメですな。
よほど私が付いてきたのが悪いか、それともこれから着く島に何かあるのか……。
「ひどい言い草だな。よし、それじゃあ今からひとつマジックであっと言わせてやろう」
鷲尾はそう言って立ち上がった。
そのとき、
グラッとクルーザーが大きく横に揺れた。
鷲尾はトランプを撒き散らして転がった。
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