2、桜の島と奇妙な客

4/7
前へ
/31ページ
次へ
「鷲尾さんは、何をしている方なんですか?」 私はふと尋ねた。 別にこの鼻の大きな男に関心があったわけではない。ただ話が途切れてしまうと居心地が悪いのだ。 「俺かね。お嬢さんは俺が何の仕事をしてると思う?」 鷲尾は逆に聞いてくる。 うーん、私は黙ってしまう。 鷲尾の外見はギャング映画の悪役のように見えた。 それも、ヘマばかりして観客を笑わせる小悪党の方だ。 鷲尾の大きな鼻と、安っぽい背広、趣味の悪いネクタイはそんな胡散臭い雰囲気を漂わせていた。 でも、そんなことさすがに本人には言えないな。 「手品師かなんかだろ」 私の隣でずっとブスッとしていた探偵が呟いた。 あの格好でほうづえをついて何やら渋い顔をしているから、さながら苦悩するソクラテスのようだ。 「ご名答、確かに俺はマジシャンだ。旦那、なんでわかったんです?まさかの名探偵だな」 そう言って、鷲尾は次々にトランプを手のひらから溢れ出させる。 「そうだよ。僕は名探偵だからわかったんだ」 探偵は鷲尾の手から零れたトランプを拾うと不機嫌に言った。 「手のひらの間接のところに特有のタコが有るし、第一トランプを仕込んでるのがバレバレだった。大方パッとしない地方回りだろ」 探偵はトランプを指でクルクルと回す。 アチャー、探偵はご機嫌ナナメですな。 よほど私が付いてきたのが悪いか、それともこれから着く島に何かあるのか……。 「ひどい言い草だな。よし、それじゃあ今からひとつマジックであっと言わせてやろう」 鷲尾はそう言って立ち上がった。 そのとき、 グラッとクルーザーが大きく横に揺れた。 鷲尾はトランプを撒き散らして転がった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加