2、桜の島と奇妙な客

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まさに鳩ヶ谷が探偵につかみかかろうとした瞬間、 「おい、お前ら甲板にでてみろよ。島が見えてきたぞ」 低い声が響いた。渋いバリトンだ。 顔を上げると背の高い男が立っていた。 背丈は探偵と同じくらいだろう。 しかし、探偵が針金虫なのに対して前の男は筋骨隆々といった体格なので、男の方がずっと大男に見えた。 「凄い眺めだ。見るといい」 大男はデッキへ上がる梯子を示す。 私たちは大男に従うように一人ずつデッキへと上がった。 私は鷲尾の次にデッキへと上がった。 そして、外へと顔を出した瞬間私は思わず息を飲んだ。 船上から見える島の姿はこの世のモノとは思えなかった。 島全体が淡い桃色に燃えていた。 桜だ……。 島の殆どを桜の木が覆っているのだ。 その桜の花びらを、日本海の荒い風が巻き上げて、桜の嵐となって天を舞っていた。 そして舞い上げられた花びらは、やがては海へと落ち海面を真っ赤に染め上げる。 桜、桜、桜、桜……。 私はその光景に目を奪われた。 私を惹き付けたのは、その美しさではない。 恐怖に近い感情だった。 どことなく胸の奥から込み上げてくる異様な恐怖だ。 日本人が桜を見る際に、宴会をするのは桜のもつ狂気に囚われないためだそうだ。 そんな話が頭に過った。 「桜の下には死体が埋まっている、か……」 探偵が静かにそう呟くのが、私の耳に入った。 この桜の島の鳥の館で、私は正気を保っていられる自信がなかった。
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