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先ほどから、叫び声が聞こえてくる。
それも、一人のものではない。数十、いや数百……。
すごい数の絶叫が繰り返し室内にこだましている。
喧騒、喧騒、喧騒……。
「五月蝿い……」
鳥居彩子(とりい・あやこ)博士は静かに呟いた。
真っ赤なルージュを引いた唇が僅かに動く。
ワイングラスをテーブルに置くと、彼女は音もなく椅子から腰を上げた。
カワセミのような綺麗なエメラルドグリーンの長髪がふわりと舞い上がる。
彼女は声のする方へと歩いて行く。
彼女の長い脚は、床の上を滑るように進む。
まるで大空から獲物を見下ろす猛禽類のように隙のない歩き方だ。
猛禽類、それは彼女鳥居博士の性質を表す言葉でもあった。
博士は、姿も中身も空の狩猟マシーンに相応しい女性だった。
彼女は部屋の奥の扉へと着くと、扉へと手をかけた。
バサバサ、バサバサ
扉を開けた途端に、激しい羽音が聞こえ大量の羽毛が宙を舞った。
彼女は部屋の中へと身を差し入れた。
そこは何とも奇怪な部屋だった。
その部屋は、どこもかしこも檻で囲まれていた。
ハト、チドリ、キヌバネドリ、ブッポウソウ、様々な種類の鳥たちがその中を飛びかっている。
あの叫び声は、鳥たちの鳴き声だったのだ。
「ママー、ママー、オナカスイター」
インコが博士の姿を見て声を上げた。
博士は持っていたクラッカーを檻に向かって投げた。
「静かにしていなさい。ママはお仕事なんだから」
博士はそう言うと、一葉の手紙を取り出した。
そして、一羽のハトの背中へと括り付ける。
クルックー。
ハトは一声上げると、博士の腕から一直線に飛び立った。
ハトは、そのまま開けられた窓を通って空へと向かっていく。
その背中の手紙には、『名探偵、戸井暦玲様へ』と達筆な字で書かれていた。
鳥居博士は、飛び去っていく手紙の姿をずっと目で追っていた。
彼女のエメラルドグリーンの髪が天井からの光を受けて眩しく光った。
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