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声の主は、身長190センチに届くような背の高い男だ。
かといって、その細すぎる体と破滅的な姿勢の悪さのため全く大きく感じられない。
高いというより長いといった体形だ。
そう、無駄に長い。
その長い体に、今日は何故かアイルランドの民族衣装のような格好をしている。
奇妙なコートにスカートのようなズボン。
バッグパイプを持って今にも踊りだしそうだ。
「なんで、あんだがごごにいるのよ」
私は呂律の回らない口で、男に言った。
「何でって、コトちゃんが僕を呼んだんじゃないか、真夜中に。」
そう言いながら、冷水の入ったコップを差し出してくる。
「来てみたらコトちゃん、泥酔してるもんだから大変だったんだよ」
「うぞだー、ぜっだいうぞ」
私がこの男を呼ぶわけがない。きっと私の失恋を知って意気揚々と駆けつけてきたのだ。
「さあ、飲んで。ほら水を飲んで」
私はグラスの冷水を喉に流し込む。
「で、今度は吐く。全部吐く、じゃんじゃん吐く」
男はエチケット袋を差し出してくる。
だが、私はさすがにこの男の前で嘔吐するのはためらい、袋を拒絶するとトイレに向かって歩きだそうとした。
途端にヨレヨレとよろけてしまい、男が肩を貸そうと寄ってくる。
「ざわんないで」
私は伸びてくる男の腕に向かって一喝した。
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