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この男と私の関係は、何と説明したらいいんだろう?
良く言うと、幼なじみ。悪く言うと、腐れ縁……。
いやいや、そんな綺麗な関係では全然ない。
もっと汚く見るに堪えない関係だ。
何せ、この細長い男は超変人で私の立派なストーカーであるからだ。
この男に全ての常識は通用しない。
危険度MAXの要注意人物だ。
しかし、私は良くこの男と行動を共にするはめになる。
哀しいことに、今年もあの別れた彼氏とよりも、この男と一緒にいた時間の方が圧倒的に多いと思う。
それは、この男が名探偵だからだ。
そう、名探偵。
あのシャーロック・ホームズやファイロ・ヴァンス、明智小五郎や金田一耕助のような名探偵だ。
奇怪な謎と真っ赤な夢の住人、まさにミステリ小説の登場人物のような名探偵だ。
この探偵の名前は戸井暦玲(といれき・れい)。
戸井暦は常識こそないが、その推理力は本物だ。
これまでにも、コンビニの密室殺人や有名作家の怪死の謎を私の目の前で瞬時に解決してきた。
しかし、それがこの男の魅力になるかと言うと全くそんなことはない。
私はあの男に対して一切の好意を抱いたことはないのだ。
それは確実なことだ。その点は理解してもらわないと困る。大いに困る。
あの探偵は私を事件に巻き込むだけの厄介な変人だ。
そこで、トイレの便器へとかがんでいた私はハッと顔を上げた。
悪い予感がしたのだ。
探偵が私の前に姿を表した、それは事件の訪れを告げる合図であるからだ。
常に、事件があるところに探偵がいるのではない。
探偵がいるところに事件は起こるのだ。
これは、類友の一種なのだろう、つまり探偵の宿命、いや探偵に求められる気質というのが事件を引き寄せる性質なのか……。
まさにその時、ガラスの砕ける派手な音がリビングから聞こえてきた。
早くもミステリーの薫りが私の鼻腔まで漂ってきた。
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