1、探偵と琴美

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リビングではガラスの破片が散乱した部屋の中に、探偵が立ち尽くしていた。 バサバサ、バサバサと耳ざわりな音がする。 何だろう? 音の主は、フローリングの上で興奮したのか羽をしきりに動かしていた。 それは、綺麗な青い羽を持つ賢そうな顔のハトだった。 どうやら、彼が窓を突き破って飛び込んできたようだ。 「オウギバトだ。普通の伝書鳩じゃない。日本にはいない種類だ。学名はGoura victona……。」 探偵はそう呟いた。 そこで私はいつもなら、そんなこと聞いてないんだよ、とか、それより窓ガラス弁償しろよムキーッ、とツッコミを入れるところだ。 しかし、私はツッコミをためらってしまった。 それは、探偵の表情を見てしまったからだ。 探偵は手紙を食い入るように見つめていた。 その顔は私が見たことのないものだった。 あれは、あの瞳の動きは…… 恐怖? もしかして、あの探偵が恐怖の表情を浮かべているのか? あのどんな不可解な死体を目撃しても、余裕を失わなかった探偵が……。 恐怖、怯え、動揺、萎縮……。 そんなものは、この探偵、戸井暦玲とは全く似付かわしくないモノだった。 「ねぇ、その手紙は誰から?」 私は小さく尋ねた。そんな探偵の姿を見ていたくなかったのだ。 「これは、僕あてのものだ。コトちゃんには関係ないだろう」 探偵はこちらを見ずに言った。 その声は微妙に震えていた。 探偵は手紙を懐にしまうと、そのまま部屋を飛び出していってしまった。 そして、私はガラスの破片の飛び散る部屋に一人残された。 窓ガラスを失った窓から、春の暖かな風が軽く頬を撫でた。
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