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仙台駅前は、人の群れで込みあっていた。
若いカップル、高校生の集団、営業途中のサラリーマンのオジサン……。
春だからだろうか、道行く全ての人の顔が明るく華やいでいた。
春……。
それは、全ての生物にとって喜ばしい季節だ。
冷たい冬を乗り切って初めて訪れる感動の季節。
それを祝うように草木は花や新緑を称え、鳥たちは舞い歌い、人々は街へと出掛ける。
そんな人々の流れの中に、ひときわ大きな荷物を持った珍妙な姿があった。
真っ白なギリシャの哲人のような服装に、スナフキンのようなヘンテコな帽子をかぶっている。
間違いない、戸井暦探偵だ。
彼にはまともなファッション感覚が完全に欠けている。
ずっとパジャマ姿のままでいるときもあるし、気が向けば服装というより仮装に走る。
アポロ13という映画を見たあとは、ずっと宇宙服モドキでいたくらいだ。
彼は人の目を一切気にしない。
だから、自分で気に入った格好だけをとことんするし、逆に興味の無いことは全く気をかけないのだ。
探偵がこちらに気付いて顔を向けると、私は大きく手を降った。
仙台駅の象徴である伊達政宗のステンドグラスを通った春の日差しが、私と探偵の間に光の像を映し出していた。
その像を横切って、探偵はこちらへと向かってきた。
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