愛しく老いる

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ゴールデンウィークに久しぶりに父と盃を交わした。 この数年で大病が続いた父は、めっきり歳をとったように感じる。それでも、普段は控えている酒も、母に『大丈夫なの?』と言われるくらいに飲む。けして、無理をしているようではない。息子と交わす酒が美味く、嬉しいのだろうか。お喋りではないし、何を聞くわけでもない。僕も饒舌ではないから、ついつい飲んでしまう。ビールを飲み終えると『美味い酒があるぞ』と戸棚から出してきた。今日のために用意してくれていたのだろうか。父は得意気にその酒を注ぐ 。黄金色したその酒はほのかに甘い香りを漂わせる。口に含み、喉を通り過ぎた時にその香りが口の中に広がるようだ。
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