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「ふ、ふふっ」
聴こえて来たのは俺の気持ち弄ぶように零れる笑み。
どん底に突き落とされ、恨めしさを目に乗っけて奈央に焦点を合わせれば…………って……えっ!?
「ふふっ。敬介変な顔。また勘違いしてます、って顔してる」
再会して初めて見る満面笑みな奈央は、折り畳んでいた書類をパッと開き、俺を絶句させた。
「敬介?」
「……」
「ねぇ、敬介ってば!!」
「だ、だって奈央、おまえ……」
言葉にならない言葉でまともに会話も出来ない俺の前で、久々に奈央が小悪魔に変身する。
「嫌なら、別の方にサインする?」
首を傾げ悪戯気味に口元に笑みを作った奈央に、俺は大きく首を左右に振った。
「だ、ダメだっ!! もう変更は受付ねぇからな!! つーか、紛らわしい言い方すんな!!」
「紛らわしいって、過去を無かったことにするとか、過去は関係なくお世話になりますって言った事?」
直ぐに答えられるってことは、俺が誤解するって認識はあったんだな……。
責め立てる胸の内を簡単に読み取った奈央は、
「でもそれが本音だからしょうがないじゃない」
自らの発言を訂正するつもりも却下もするつもりもないらしい。
「働かせてもらえるなら、公私混同するつもりはないし、公平に判断して欲しかったの」
「……」
「ここでの私は、沢谷専務にとってベストを尽くすだけ」
「ったく、おまえは……」
大体な! と続ける安堵感を手にした俺は、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように、奈央に想いの丈をぶつけた。
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