第1章 Vol.1 日常

16/19
前へ
/629ページ
次へ
「ねぇ、知ってた?」 テーブルを挟んで座っている俺に向かって、身を乗り出し質問してくる里美。 「知らねぇ」 「ちょっと、まだ言ってないじゃないの! 私が言いたいのは、私が敬介のこと好きだって知ってた? って聞きたかったのよ」 「は?」 里美が俺を…? 好き…?! そんな素振り、一回だって見せた事なかったよな。 実際、本命を手放す事もなかったじゃねぇかよ。 何を今頃になって……。 「私、騙すの上手いからね! 気付かなくて当然。知られてたら、私達の関係もこんなに続かなかった筈だし」 そこまで言うと立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し戻って来ると、1本を俺に差し出して話を続けた。 「好きだったけど、敬介に妥協できなかったのは私。でもね、こんな関係でも、一緒にいる時は幸せだと思ったのも本当よ。人は一人じゃ生きていけない。誰かに傍にいて欲しいって…敬介はそんな風に思ったことない?」 「…ねぇな」 「嘘」 俺がないって言ってるのに、お前が否定する必要ないだろ。 知った顔をする里美にイラつきを覚え、ビールを体内へ流し込む事でその感情を抑え込んだ。
/629ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4718人が本棚に入れています
本棚に追加