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「あら、お金は大事よ。好きって情熱だけで突っ走れるほど若くはないし、お金の苦労は子供の頃に経験済みだもの。あって無駄になるものではないでしょ。でもね……」
そこまで言うと、ビールを一口飲んで少し頬を赤く染めると、再び口を開いた。
「もし、彼がお金に困ったとしても、私が代わりに働けばいいだけの事って今は思ってる。こんな風に思えたのは彼が初めてよ。金の切れ目が縁の切れ目って思ってたから」
話してる間、今までの里美からは考えられない発言に本人も照れたのか、俯いて視線が合う事はなかった。
「そんなに幸せなら、今日、俺とこうして会う事なかっただろ」
「彼は今まで私がどんな私生活を過ごしてきたか全部知ってるの。知ってる上で私を受け入れてくれた。流石に、今日敬介と会う事は伝えてないけど、今までの私も私だから。でもその自分とも今日で決別。やっぱり私、敬介じゃダメみたいって良く分かったし」
「なに、俺試されてたわけ?」
「まぁ、そんなとこ。これ位してもいいでしょ。1年以上も私の気持ちなんて気付いてもくれなかったんだから」
やっと交わった視線の先には、穏やかに笑う里美がいる。
俺の知っている里美は、どちらかと言えばクールな女だった。
表情もあまりなく、ましてやこんな風に語ったりする事もないが、頭の回転だけは速い女だと感じていた。
言わなくて良い事と、聞かなくて良い事のボーダーラインが分かる奴だと思ってたからだ。
俺が大人の女と定義付けする、基準値にいる女だった。
「女って男で変わるんだな」
別に里美に向けて言った訳じゃない。
思ったままの言葉が無意識に口を付いて出ていた。
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