第1章 Vol.1 日常

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「変わったとこもあったと思う。でもそれ以前に、敬介は私の事を知らな過ぎたのよ。上辺だけしか見てなかったでしょ?」 里美の言う通りだ。 知ろうともしなかったし、その必要もないと思っていた。 里美の気持ちにも気付かなくて当たり前の男なんだよ。 「お前の体だけは、しっかり見てたけどな」 「それも怪しいもんだわ。他の女と区別がつくかどうか?」 シラーっとした流し目で言われた言葉は、自信がないだけにぐうの音も出ない。 ここは冗談で流しとけよ。 残っていたビールを一気に流し込み、空になった缶を握り潰すと、誤魔化すように立ち上がった。 「帰る?」 「あぁ、もう充分話したろ。説教まで受けたし」 「ふふ、そうね……ねぇ、敬介…」 玄関で靴を履く俺の前に、真面目な顔した里美が立つ。 「なに?」 「敬介にも、自分の居場所きっとあると思うよ。敬介をちゃんと見てくれて、敬介も放っておけなくなる子が、きっと何処かにいるはず」 「お前の持論を俺に押し付けるな。そんな付き合い面倒なだけだろ」 「ま、その時が来たら敬介にも分かるわよ。その前に、あんた仮にも教師なんだから、いい加減遊ぶの止めなさいよね」 何なんだよ、こいつは! 別れるとなったら急に口喧しくなって。 「セーブしてんだろ。今じゃ、週末しか遊んでねぇよ」 「威張って言うな! それから、生徒にまで手を出すんじゃないわよ!」 「ガキは相手にしねぇって。里美、そんなに口煩いと男に逃げられるぞ」 「心配無用よ」 そう言って微笑む里見は、やっぱり幸せそうな顔をしている。 ホント、女って分かんねぇ。 急にこんなに変わるもんなのか? 「じゃ、俺行くわ。お前はお前のやり方で幸せになれよ」 「うん! 敬介、今までお疲れ様!」 お疲れ様って……。 他に言いようがあんだろ。 体の関係だけとは言え、長く付き合ってきた女の言う台詞じゃないんじゃねぇのか? あまりにあっけらかんと笑顔で言われ、思わず俺も笑みが零れる。 「お疲れさん!」 アイツに合わせ言った言葉に続けて、『本気で好きな子が出来たら教えてね』と言う里美の声を背にしながら部屋を後にした。
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