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「変わったとこもあったと思う。でもそれ以前に、敬介は私の事を知らな過ぎたのよ。上辺だけしか見てなかったでしょ?」
里美の言う通りだ。
知ろうともしなかったし、その必要もないと思っていた。
里美の気持ちにも気付かなくて当たり前の男なんだよ。
「お前の体だけは、しっかり見てたけどな」
「それも怪しいもんだわ。他の女と区別がつくかどうか?」
シラーっとした流し目で言われた言葉は、自信がないだけにぐうの音も出ない。
ここは冗談で流しとけよ。
残っていたビールを一気に流し込み、空になった缶を握り潰すと、誤魔化すように立ち上がった。
「帰る?」
「あぁ、もう充分話したろ。説教まで受けたし」
「ふふ、そうね……ねぇ、敬介…」
玄関で靴を履く俺の前に、真面目な顔した里美が立つ。
「なに?」
「敬介にも、自分の居場所きっとあると思うよ。敬介をちゃんと見てくれて、敬介も放っておけなくなる子が、きっと何処かにいるはず」
「お前の持論を俺に押し付けるな。そんな付き合い面倒なだけだろ」
「ま、その時が来たら敬介にも分かるわよ。その前に、あんた仮にも教師なんだから、いい加減遊ぶの止めなさいよね」
何なんだよ、こいつは!
別れるとなったら急に口喧しくなって。
「セーブしてんだろ。今じゃ、週末しか遊んでねぇよ」
「威張って言うな! それから、生徒にまで手を出すんじゃないわよ!」
「ガキは相手にしねぇって。里美、そんなに口煩いと男に逃げられるぞ」
「心配無用よ」
そう言って微笑む里見は、やっぱり幸せそうな顔をしている。
ホント、女って分かんねぇ。
急にこんなに変わるもんなのか?
「じゃ、俺行くわ。お前はお前のやり方で幸せになれよ」
「うん! 敬介、今までお疲れ様!」
お疲れ様って……。
他に言いようがあんだろ。
体の関係だけとは言え、長く付き合ってきた女の言う台詞じゃないんじゃねぇのか?
あまりにあっけらかんと笑顔で言われ、思わず俺も笑みが零れる。
「お疲れさん!」
アイツに合わせ言った言葉に続けて、『本気で好きな子が出来たら教えてね』と言う里美の声を背にしながら部屋を後にした。
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