第1章 Vol.1 日常

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「ほら!席に着きなさい!!」 体は小さいのに、良くそんな大きな声が出るもんだ。 やっぱり、教師ってもんは声がでかい方がいいのか? 2-A組、担任の女性教師、福島先生の響き渡る声で静まる教室を見渡しながら、これからこのクラスの副担となる俺は、生徒の顔を一人一人を確認していた。 「今日から、産休に入られた小泉先生に代わって、副担をして貰う事になった沢谷敬介(さわたにけいすけ)先生よ。残り数ヶ月だけど、沢谷先生と私を困らせないように、皆も頼んだわよ」 『先生からも一言どうぞ』と、福島先生が退いた教壇に促され、生徒達からの視線を一斉に浴びながら、ありきたりな言葉を吐く。 「もう2学期も終わりだし、短い期間だけど宜しくな」 教師1年目の俺は数学教師。 この学校では、同じクラスでも標準コースと特進コースに別れ数学の授業を受けることになっていて、2年の標準コースを受け持っている俺は、見知った顔も多い。 そして、知らない奴等の殆どは、かなりデキの良い奴等。 中でも、1年の途中から都内でも有数の進学校と言われるうちの高校に転入して来て以来、常に学年トップをキープしていると言う、教師達からも一目置かれている奴がる。 教師だけじゃない。 そいつは、生徒達からも注目の的だ。 決して、自ら前に出て行くタイプでもないのに、そこに居るだけで存在感があるそいつ。 小さな顔に、吸い込まれそうなふたつのブラウンの瞳。 スーッと通った鼻筋。 色白のせいで余計に目立つ、赤い唇。 瞳と同じ色で、天使の輪がくっきりと浮ぶサラサラな長いストレート。 どれを取っても完璧な容姿。 下手な芸能人より、よっぽど見栄えがいいそいつの名は……水野奈央(みずのなお)。
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