Vol.2 もう一つの顔

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「本気で好きな子ねぇ…」 バーのカウンターで一人。 昨夜の里美の言葉を思い出し、誰の耳にも届かないほどの声でポツリ呟く。 俺がまた、誰かを本気で好きになる事なんてあんのか? 自問する俺の中に浮んだのは古い記憶。 遠い昔、一度だけマジになった女が脳裏を掠める。 本気な素振りを見せといて、本当は俺のバックボーンしか見ていなかった過去の女……。 今更思い出してもムカツキはしないが、いい気分にならないのも確かだ。 ったく、里美のせいで余計なもん思い出しちまったな。 割り切った女だと思っていたアイツが、見たこともない幸せそうな顔で、らしくないこと言うからだ。 里美に愛情があった訳じゃないが、同じ人種だと思ってたアイツの変わりようは、少なからずとも俺に衝撃を与えていたようだ。 お蔭で、土曜だって言うのに適当な女を呼ぶ気にもなれず、一人こうして飲んでるんだから、この俺もらしくない。 くだらない記憶と、そんな自分を掻き消すように、琥珀色の液体を体内に流し込んだ。 空になったグラスの中で、透明な固体がカランと音を立て、同じものをバーテンに頼む。 たまには一人酒に酔いしれるのも悪くないか……。 そう思った時だった。 『もう終わりにしたいんだけど』 面倒な状況にありそうな女の声が、カウンターの端から聞こえてきた。
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