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『他に好きな男でも出来たのか?』
『変なこと言わないでくれる?』
『じゃあ、理由は何なんだよっ!』
聞きたくもないのに耳に入って来る、少しずつ大きくなる男の声。
『何か勘違いしてるみたいだけど、好きな男なんて初めから何処にもいないけど?』
それに反して女の声は至って冷静なものだ。
男もそう熱くなってないで、さっさと別れてやりゃあいいのに。
露骨に冷めた態度取ってる女が、気持ちを変えるつもりは全くないって意思表示してること、察してやれって。
『俺はお前のこと本……』
『まさか本気だなんて言わないわよね。数回しか会ったこともなければ、本音で話したこともないのに、見た目で本気になられても困るんだけど』
女のその気持ちは良く分かる。
でも、見た目でって……どれだけいい女なんだ?
少し興味が湧くものの、修羅場な場面にあからさまな視線を向けるわけにもいかない。
それより、男の言葉を遮って言う女の台詞は小気味良いが、あまり度が過ぎると男に殴られるんじゃないかって、そっちの方が気になった。
……って、言ってる場合じゃないらしい。
端に座るカップルにいつの間にか集中してしまっていた俺。
自分に近付く足音を聞き逃していたらしい。
背後に気配を感じ振り向くと、そこには見覚えのある女が立っていた。
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