Vol.2 もう一つの顔

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名前が思い出せない女。 恐らく、面倒で連絡取らなくなった女だ。 「敬介君、此処で会えるとは思わなかった。私、ずっと電話待ってたんだよ?」 人の修羅場心配してる場合じゃねぇな。 とりあえず……先に名前を名乗ってくんねぇか? 「ねえ、どうして電話くれないの?」 女は少し声を震わせ、俺をジッと見る。 ずっと待ってたと強調するように、そして、俺を責めるように目を逸らそうとしない。 「ごめん、忙しくて」 「嘘!」 速攻で否定される。 って言うか、分かってるなら問い詰めることないだろ。 俺は勝手に近付いてくる女に手は出しても、自分から声をかけ誘う事はしない。 そう言うつもりで近付いて来る女の方が、面倒が少ないからだ。 この女だって自分から誘ってきたはずだ。 欲を満たす為に自分から近付いておきながら、関係を持った途端、それ以上のものを求めて勘違いされても困る。 俺も、さっきのカップルの女のように、ハッキリ言ってみるか! ……いや、ダメだな。 言えたら楽だが、そうは簡単にはいかないだろう。 どうせギャアギャア泣かれるのがオチだ。 「悪かった」 「謝って欲しいわけじゃないの……。また会って貰えればそれでいい」 それが出来ないから謝っているって、理解して貰えないらしい。 この手のしつこい女は苦手だ。 ハッキリと会えないこと告げようと口を開きかけた時、この場にもう一人いた理解力のない男が俺の横を通り過ぎ店を出て行った。 さっきの女は、どうやら殴られずに別れられたようだ。
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