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「敬介君、お願い。また会ってくれる?」
自分の状況を一瞬忘れ、顔も知らない女の心配していた俺に迫って来る、名前も知らない女。
「悪い。もう会えない。ごめんな」
「どうして?」
「今、本気で惚れてる奴いるから」
頼むからこれで納得してくれ。
……そんな俺の願いは、残念ながら届かないらしい。
隣に腰を下ろし唇を噛締め俯く女は、どうしても納得出来ないらしく、声を低くして俺の言葉を否定する。
「そんなの嘘よ。どんな人? そんなの信じない」
最後は俺に睨みまで利かせて。
そりゃ、嘘はついてるが、お前と付き合ったつもりはないし、そんなにムキになられる筋合いもない。
お互い了承の上で一時を楽しんだんだから、それでいいだろ! と、思っても、
「嘘じゃない。本当だ」
って、突き通すしかない。
「その人、由里より綺麗なの?」
信じないと言いながら本気の女を知りたがる矛盾。
そして、感情的になってるのは、自分に自信があるだけにプライドが許さないってとこか。
ま、見た目は確かに綺麗な方なんだろうけど……。
それよりお前、由里って言うんだな。
やっと名前が分かったのは良いが、この由里って女に何て答えるべきか……。
此処は泣こうが喚こうが、下手に機嫌を取ってつけ上がらすより、お前より綺麗な女だって言っといた方がいいよな?
頭を高速回転で働かせ、答えを出そうとする俺に届く促す声。
「敬介、はっきり答えてあげれば?」
だよな。
ハッキリ言ってやって、騒がれたら店を出りゃいいんだもんな!
って……ん?……待てよ。
今の声、誰だ?
敬介……だと!?
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