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「いつまで見てる気?」
囚われていた俺に言った台詞じゃない。
ピッタリ俺に寄り添った女が、黙って立ち尽くしたままの由里に投げつけた言葉だ。
一緒にいた男と話してた時と同様。女の声は冷静そのものだ。
女の声にハッとした顔を見せた由里は、次には悔しそうに眉を顰(ひそ)め、何も言わずに俺達に背を向け立ち去って行った。
敵うはずがないと思ったんだろう。
俺の横で寄り添う女に。
自分より綺麗かと訊ねたその答えを、由里自身が目にして理解したのだろう。
この女が相手じゃ敵わないと…。
由里には女の連れがいたらしい。
ドアに向かって走る由里の後ろを、慌てた様子で連れの2人が追いかけて行った。
「やっと諦めたね!」
ドアの向こうに完全に消えた姿を見届けて、俺から離れた女。
由里が何も言えずに、去らざるを得ない程の綺麗な笑みとこの衝撃に、俺さえも言葉を呑んじまう。
鳩が豆鉄砲を喰らった状態の俺。
「あっ、これ頂戴。喉渇いた」
なのに、こいつと来たら、人の気持ちも知らずにマイペースで俺が飲んでた酒に手を伸ばし……って、待て!
「おいっ、こら! お前ダメに───…」
「ここで騒いだらまずいんじゃないの? お互いに! それとも、また口を塞いで欲しいとか? マウス・トゥ・マウスで!」
俺の唇に人差し指を立て、口封じしながら余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で話しやがる!
まるで、『ホラね、何も言えないでしょ』と、心の声を届けるように、チラッと潤んだ瞳で俺を見て、挑発的に酒を飲んでいる。
何でコイツにペース掴まれてんだよ……。
ダメだ、このままじゃ!
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