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自分に気合を入れ、盛大に溜息を付いてから、コイツの手の中にあるグラスを奪い取った。
「これはダメだ!」
グラスを奪った俺に反発こそしなかったが、『はいはい』と、返事をする言い方は、人を小バカにしているに違いない。
「それより……お前、全然違うじゃねぇかよ!」
隣にいる俺の声が聞こえないはずないのに、軽くスルーし、彩られた指先を弄っている。
「それに……何であんな事した?」
「うん? あんな事って、キスの事?」
まるで大した事でもないように、首を傾げ平然と答える。
「……あ、あぁ」
俺にとったって大したことじゃない!
…が、コイツは別だ!
俺が遊んでいる女とは訳が違う! そう思うと、自然とどもってしまうのは仕方がない。
「あれは、昨日のお礼の気持ちが半分」
「…昨日の?」
あ?……あの事か?
「キスされそうになったの、助けてくれたでしょ?」
そうだ。
あの時は、未遂とは言えショックを受けていたアイツが…。
ショックを受けていたように見えたアイツが…。
戸惑う事無く人前で自らキスをして、今もまた、潤んだ瞳のまま僅かな笑みを浮べ俺を見る。
これが同一人物か?
これがあの優等生……、
水野奈央……なのか?!
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