Vol.2 もう一つの顔

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「じゃ、敬介。私、もう行くね」 ほらな、また呼び捨てだ。 「お前な、呼び捨ては止めろよ」 「えっ? だって、マズイでしょ?」 そこまで言うと、俺の耳に顔を近づけ『ここで先生って呼んでもいいの?』と、含みを持った小さな声で言ってくる。 確かに、そう呼ばれればそれはそれで非常にマズイ! でも…。 水野が俺を先生と呼んだところで、コイツを17歳の小娘だと信じる奴はどれほどいるだろうか……。 素朴な疑問が浮かび上がる。 どう見ても、今の水野は完璧なまでに綺麗なお姉さん、って感じだ。 俺達を見て、教師と生徒の間柄なんて誰も思わないだろう。 普通の恋人同士と言っても通じると思う。 先程までの、お互いの修羅場を見られてなければの話だが。 だけど俺達は間違いなく教師と生徒で、こんな所にいる生徒を、注意しなくてはならないのが俺の立場。 それが、女と別れるのに一役買ってくれたのが、生徒でもある水野だなんて…。 有り得ねぇ……。 考えれば考えるほど、冷静になればなるほど、最低な状況下にあると気付かされる。 「あのな? 水野…今夜の事だけど───」 「誰にも言わないから安心して。私も今まで築き上げてきた自分のイメージを壊したくないし」 頭の良い奴は回転も速い。 俺の話を全部聞かなくても、その先を見越して答えを出してくれるのは、手間が省けて助かる。 「そうか…」 今日の事を言わない代わりに、俺も水野のイメージを壊さないでいろと、水野の事も誰にも言うなと…そう言う事だよな。 教師として最低だと思いつつ、非常識な約束を守るしかない。 「早く帰りたいんだけど、もう行ってもいい?」 「いいけど、そんな慌ててこれから他で夜遊びするんじゃないだろうな。ちゃんと家に帰れよ」 「教師らしいこと言っちゃって」 俺がいる方とは逆に顔をそむけ、小さな声で言ったつもりらしいが……水野! しっかり聞こえてるぞ。 しかも、自分でも今更だと思うだけに、突っ込みも入れられないじゃねぇかよ!!
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