Vol.2 もう一つの顔

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「本当に家に帰るの。さっき言ったでしょ?  敬介の恋人のフリをしたのはお礼が半分。残りの半分は、私が早く帰りたかったから。さっさと別れられない敬介の横を、私が素知らぬ振りして通り過ぎたんじゃ気まずいでしょ?  だから、別れるのを手伝ったってわけ」 「……そりゃ悪かったな」 「私、こう見えても具合悪いの。早く帰って寝たいのに、モタモタして別れられないでいるんだもん。見ててイライラしてたのよ。じゃ、そう言う事だから」 モタモタして悪かったな! こんなくそガキに言われるなんて。 俺のプライドはズタズタだ。 にしても、具合が悪いだと? 全くそんな風には見えないけど。 その口調からも、そんな様子は微塵も見て取れない。 それでも本当だとしたら?  と、僅かに心配する気持ちもあり、水野を見ていた俺の目の前で……。 バックを手に持ち、少し高さのある椅子から降りた瞬間、水野の身体はぐらりと揺れた。 「あぶねっ」 咄嗟に腕が出て水野の身体を支える。 「ありがと。ちょっとふらついただけ。もう大丈夫だから。じゃあね」 体勢を立て直すと、たった今、倒れそうになった奴とは思えないくらい普通の声で話し、支えていた俺の手を振り解いた。 「待てよ。お前本当に具合悪かったんだな」 「だから言ってるじゃない。誰かさんがモタモタしてるから、体調が悪化したのよ」 モタモタを原因にする前に、体調悪いならこんなとこ来るなよ。 説教の一つでも言ってやろうかと思ったが、どうせまた、今更の教師面は嫌がられるに違いない。 水野の顔を探るように見ながら、考えあぐねていた俺だったが、ふとその顔を見てあの感触を思い出す。 そう言えばあの時…。 直に触れ合った唇は、驚くほど熱を持っていなかったか? 瞳だって潤んでたし。もしかしたらコイツ……。
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