Vol.2 もう一つの顔

12/14
前へ
/629ページ
次へ
俺から離れた水野の腕を引っ張り距離を縮める。 「ちょっと何?」 「いいから」 やっぱり。 バカかコイツは! こんな状態で酒なんか飲みやがって。 「お前、熱あるじゃねぇかよ」 「大したことないわよ。寝れば直ぐに良くなる」 大したことあるだろ。 無理矢理、水野の額に押し当てた俺の手の平には、相当高いと思われる熱が伝わってきた。 「水野、送ってく」 「ヤダ」 『いいです』『大丈夫です』って、断るならまだ良しとしよう。 でもな… ヤダって何だよ、ヤダって! しかも、即答しやがって。 第一、こんな高熱があって一人で帰らす訳にはいかないだろ。 教師として失格だと言われても、この状態の水野を放って置けるほど、俺だって薄情じゃない。 「煩い。黙って送らせろ」 「聞いてた? 私はヤダって言ったんだけど」 「お前こそ聞いてんのか? 黙って送らせろって俺は言ってんだ」 「一人で帰れる」 「お前、ホント可愛くねぇな。そんな身体で途中ぶっ倒れたらどうすんだ。担いででも送ってくからな!」 熱のせいだと思われる潤んだ瞳で俺を軽く睨むと、諦めがついたのか、わざとらしいまでに盛大な溜息を落としている。 そんな事には気にも留めず、バックを水野から奪い持ってやると、肩を抱き寄せ店を出た。
/629ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4715人が本棚に入れています
本棚に追加