Vol.2 もう一つの顔

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「一人で歩けるってば……エロ教師」 「聞こえてんぞ」 「聞こえるように言ってるの」 熱があるとは思えない強い口調。 全く可愛げがない。 だけど、それに反して足取りは段々と頼りなくなってきている。 一人で歩けると言うのに、俺から逃れようともしない。 辛ければ辛いって、そう言えばいいものを。 強がんなよ。 水野が離れられないように、倒れてしまわないように、華奢な肩に回していた手の力を少しだけ強めた。 煌びやかな街中で、流しのタクシーを捕まえ二人で乗り込む。 「水野んち何処?」 「……世田谷」 世田谷か…。 強気な声ももう出ないのか、蚊の泣くような声の水野と、偶然にも同じ場所に俺は住んでいる。 「世田谷のどの辺?」 「…近くなったら言うから」 とりあえず、運転手に世田谷方面とだけ告げた。 「それより、親御さん心配してるだろ。俺から電話してやろうか?」 別におかしな事は言っていない。 なのにコイツと来たら、何故か口元を緩ませている。 「何が可笑しいんだよ」 「別に。ただ、敬介らしいなと思っただけ。把握していない所が」 把握? 何の? 水野の言葉が理解できない俺は、頭の中に疑問符ばかりが浮ぶ。 「うちの親、神戸に住んでるの。私は一人暮らし。調査書に書いてあるはずだけど~?」 語尾を延ばし嫌味を含む水野。 その嫌味は甘んじて受けよう。 副担が決まった時に、クラスの全生徒の家庭調査書なるものを渡され目を通した。 目は通したが、完全なる斜め読み。 ペラペラとしか捲っていない俺に、インプットされてる情報は、そう多くない。 でも一人って…。
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