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「おい、他に誰もいないのか? 本当にお前一人?」
「……そ」
こんなに熱だってあんのに、一人で大丈夫か?
かと言って、俺の部屋に連れて行くのはマズイだろうし。
どうすっか…。
「余計な心配ならいらないから。これ位、何てことない」
あっさり心の中を読み取られる。
だが、そうは言ってもな……。
横目で水野を捕らえながら考えていた時、車はカーブに差しかかり、遠心力で水野の体は力なく倒れそうになる。
その水野の頭を引き寄せ、俺の肩に凭れかけさせた。
「近くなったら起こすから、それまで寝てろ」
大分辛くなってきたんだろう。
言われるままに目を瞑り、俺にその身を預けた。
「…やだな…ばれちゃった…」
そう水野は小さく弱々しい声で呟くと、そのまま深い眠りへと落ちて行った。
やだって、コイツの本性のことなら自分でばらした事だろう?
大胆にもキスまでしてきた癖に。
熱がまた上がったのだろうか。
呼吸が少し乱れた水野に、心の内で突っ込みを入れながら、顔にかかった髪の毛を掬うと、額にうっすらと滲んだ汗を拭ってやる。
「一人にさせられるかよ……」
弱々しい姿に、無意識に口を付いて出てしまった俺らしくもない言葉は、ラジオから流れる曲に掻き消され、運転手にも聞こえなかったはずだと、一人安堵の溜息を漏らした。
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