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「水野。おい、水野」
肩を僅かに上下に動かしながら息をして、俺に寄り添い眠る水野に、これ以上声を掛けるのは諦めた。
コイツの家で看病してやろうかとも思ったが…。
「運転手さん。この先の突き当りを右折して下さい」
俺んちで面倒見た方が動きやすい。
コイツの家に運んだ所で、何が何処に置いてあるのか分かりもしなければ、訊ねた所で、この状態じゃ水野も説明できないだろ。
暗闇に静かに停まったタクシー。
支払いを済ませ、なるべく振動を与えないように、ゆっくり水野を抱きかかえる。
軽い…。
コイツ、ちゃんとメシ喰ってんのか?
力が入らず、腕をダランとしてる水野を見下ろしながら、壊れ物を扱うように、落としてしまわぬように、そっとエレベータへと乗り込んだ。
───ピピ゚ッ、ピピッ…
ちっ…。
9度近くもあんじゃねぇかよ。
部屋に入るなりベッドに横たえ測った体温計。
指し示すそれは、思ってた通り高い熱である事を証明していた。
起きる気配もない、少し赤い顔で呼吸は乱れたままの水野を、冷やさなくてはと思うと同時に、もう一つ選択せねばならない事に躊躇する。
……着替えさせる…べきか?
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