Vol.3 重なる偶然

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────ボタッ ……んっ。 僅かな物音に、敏感に脳が反応しようとする。 いつの間にか、寝ちまってたか。 顔を上げると、カーテンの隙間からは眩しい光が差し込んでいた。 どうやら、水野の手を握り締めたまま、ベッドの上で突っ伏して寝ていたらしい。 俺が座っている床には、物音の原因だと思われる氷嚢が落ちている。 冷たくも何ともない氷嚢をベッドサイドのテーブルに置くと、まだ眠っている水野の額に手を合わせた。 良かった。 熱は大分下がっている。 「…んっ」 小さく唸った水野は、握っている俺の手にも少しだけ力を入れた。 額に置いていたもう片方の手を退かし 「目覚めたか?」 と、問い掛けると、ずっと閉じられていた瞼は、ゆっくりと開き、その瞳に俺を映す。 覚醒しきれていないのか、ボンヤリと俺を眺める眼差し。 「どうだ気分は?」 「……え…?…私……」 今、自分がどのような状況にあるのか分からないんだろう。 「昨夜、タクシーで寝てから、ずっと起きないから俺んち運んだんだよ」 「………そうだったんだ」 小さく息を吐いた水野は、視線を動かし繋がれていた手に目を移す。 水野が目を覚ましたって言うのに、まだその手を離していなかった事に気付き、慌てて退かした。 「……ずっと看病してくれてたの?」 「ま、まぁな。それより熱測れよ」 何となく照れ臭くて、一晩中、水野の手に触れていた右手で体温計を取ると、それをアイツの前に差し出した。 「あっ、バスローブ……」 ……って、今度はそっちかよ! 体温計を脇に挟もうとした途端、水野が気付いたもう一つの事実。 気まずい。 疚しいことなど何一つないのに、手を握っていたことよりも、ずっと気まずい。
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