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水野奈央の存在は、教室を見渡し時に直ぐに気付いた。
遠目から見た事はあったが、こうして近くで見るのは初めてだ。
まあ、言われるだけの事はある。
評判通りの美貌。
教師ですら水野に目を奪われてる奴もいるらしいし。
教頭自らが、くれぐれも恋愛感情なんて持たないよう注意してきたほどだ。
だが、綺麗なものは綺麗と認めつつも、それ以上の感情を探せと言われたとしたって、俺には無理だろう。
「ねぇ、沢谷先生彼女いるの~?」
甲高い声で俺に向けられる女子生徒からの質問。
その質問と同時に、そわそわし始める女子生徒を普通とするならば、確かに水野は違うタイプに見える。
「いきなりそんな質問かよ。ま、恋人ならいるけど」
と、普通の女子生徒達に一応答えとく。
不特定多数だけどな……って事は、胸にしまって。
俺の答えに、一段と高い声でギャアギャア騒ぐ女子達に、呆れた様子の男子生徒。
そして……。
まるで人形のように整った綺麗な顔で静かに微笑する水野は、今のこの場では浮いている存在なのかもしれない。
福島先生の響き渡る声で再び静まり返る教室を出れば、またいつもと同じ日常が始る。
授業をして、休み時間には女子生徒に囲まれて…。
午後からの授業が終わったら、放課後には勉強を教えて欲しいと言う名目で言い寄って来る女子生徒を交わしながら、職員室では煩い教頭の話を上手く受け流す。
これが教師としての在り来たりな俺の日常だ。
別に、こんな毎日がイヤなわけではない。
かと言って、満足かって聞かれりゃ、満たされない何かが俺の中にはいつもある気がしている。
本来、聖職者にある立場の人間じゃないって自覚もあるし。
ただ、昔から学校が好きだった。
家にいるより学校に安らぎを求めた。
だから大人になっても、その場所に逃げただけ。
生徒には戻れない俺は、教師となってこの場にいることを人生の選択肢としただけだった。
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