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「お前って、いつもあんな風に男と付き合ってるのか?」
口を閉ざした水野は、代わりに大きな瞳をパチパチと動かし、首を捻って俺を見る顔は、不思議そうにしている。
……何だよ、流れるこの静かな時間が居心地悪いだろ。
何とか言えよ。
「ふ~ん…」
やっと沈黙の時を破ってくれたと思ったら、出て来たのは曖昧な声。
「何か言いたげだな」
「そうじゃないけど、敬介がそんなこと聞いてくるとは思わなかったから。あんな風な付き合いが普通だと思ってる人に不思議がられる方が不思議。だって、敬介も私と同じ考えの人でしょ? 違う?」
逆に切り返されても、その答えに何を求められているのかは分かっている。
これが他の女に出す答えなら容易い。
体の関係だけで充分だと、答えることも出来ただろう。
だが、相手は生徒。
教師として認めて貰えない相手であっても、俺がどんな奴かばれていようとも、たったそれだけの事実は意外と大きく、口にする事に躊躇いが生じる。
そんな俺を代弁するかのように、水野は口を開いた。
「つまらない時間をやり過ごす為だけの事。そこに感情は必要ないし、それを悪いだなんて思わない……そう言う事だよね?」
呆気ないまでに、日頃自分が思っていることを、仮にも教師である俺に、いとも簡単に言い放った。
こんな女は、割り切った関係の中ではいくらでもいた。
でも、水野は俺の生徒だ。
生徒である水野が言っているという現実に、俺は歯痒さを感じていた。
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