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この歯痒さが何なのかは分からない。
一つ分かるとすれば、それはどんな綺麗事を並べ立てても、多分水野には通用しないという事。
コイツが教師と生徒と言う壁を持つつもりがないのなら、俺も取っ払うか。
普段は本音もホントの姿も隠してるお前が、何の躊躇いもなく、人に否定されてもおかしくない事を口にしたんだから。
きっと、自分と同じ匂いのする俺だから言えたんだろう。
「お前、屈折してんな。俺も同じだ。それだけに不気味」
「“普通” とされている恋愛だって、充分屈折してるじゃない」
何処を見るでもなく、俺の視線から外した水野の瞳は、宙を彷徨いながら言葉を続けた。
「好きだ何だ言ったって、自分の思い通りにならない出来事にぶち当たれば、簡単に怒りに変わるし憎しみにも変わる。愛情も憎しみも紙一重なんだし」
「そんなもの求めて感情揺さぶられた挙句、時間を奪われるのはバカらしい……ってことか?」
「そう」
よく分かってんだな…。
全く同感だが…。
「それって、そう言う恋愛をした事があるって事だよな? 経験があったからこそ知り得たもんだろ」
俺の問い掛けに、無表情のまま彷徨っていた瞳は俺の視線の前で止まり、答える代わりに悲しげにフッと微笑むと、水野は再び視線を外した。
無言での肯定か……。
その過去が今もまだコイツを苦しめ、傷口が塞がらずにいたなんて、この時の俺は、まだ何も知らずにいた。
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