Vol.3 重なる偶然

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「だけど、お前は女だから…」 悲しみを帯びた顔を垣間見て、思わずそんな言葉が口をついて出た。 「だから何?」 「あまり無茶はすんな。男と女じゃ根本的に違う。男は感情と肉体を切り離す事は出来ても、女はそれだけで済まされないこともあるだろ。体の造りも違うから傷を負うことだってあるんだし」 「うわっ、教師っぽいこと言ってる」 そうおどけて見せる水野だけど、そんなんじゃない。 教師として言ったつもりは微塵もない。 「別に教師として言ったんじゃねぇよ」 「じゃ、何よ?」 何って言われても……俺にだって分からねぇよ。 唯、つい数分前に見た表情に、昨夜涙を流していた水野の姿がリンクして、脳裏を掠めて行ったんだ。 気付いた時には、自然に言葉が漏れ出ていた。 強いのか弱いのか、見定めが付かない女を前にし、俺の中に自分でも理解し難い何かが生まれた気がした。 それを俺自身受け入れたくなくて、水野に悟られたくなくて、里美と言う存在で全てを濁す。 「あのな、俺にも良く分からないが、自分の居場所ってのがあるらしい。本気で好きになると見つかるらしいから、水野はまだ若いんだし、そういう奴が現れた時に後悔しないように、自分を大事にしてやった方がいいんだと思う……多分」 目の前の女は、大きな瞳を最大限に見開いたと思ったら、今度は声を出して笑い出した。 「何なの、その曖昧な言い方。それって誰の受け売り?」 「あ? 割り切って長いこと付き合ってた女。好きな奴が出来た途端、俺に説教してきやがった」 更に笑いは大きくなり、涙まで滲ませてやがる。 「想像すると笑えるんだけど。敬介の虚しい姿が目に浮ぶ」 「てめ、俺の言いたいのはそこじゃねーだろ! 女は男で変わりもするって事だ!」 勝手に想像して、人を哀れんでんじゃねーよ!
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