Vol.3 重なる偶然

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「もう大丈夫」 「ダメだっ!」 「しつこいよ」 「可愛くねぇな」 「一人で帰れるって言ってるでしょ」 「まだ熱あるのに何言ってんだ!送ってく」 食事が終わり数十分後。 食器を洗うと言い張る奈央を、具合が悪い時はそんな事しないでいいとキッチンから追い出し、何とか説き伏せたのも束の間。 今度は玄関先で、帰ると言い出した奈央と俺との押し問答が繰り広げられている。 送っていくと言う俺に、それを拒絶する奈央。 「此処から近いんだってば!」 「だからって一人で帰せるはずないだろ。まだ体力だってないんだし」 「ホントに大丈夫!」 「誰かに見られても面倒だから、車に乗ってけ」 「もう! 人の話聞いてよ! 私は断ってるの」 俺の住んでる部屋は最上階。このフロアーには俺を含めて2世帯しか入ってない。 専用のエレベーターがあるから、直通で地下の駐車場まで下りて車に乗り込めば、他人の目も気にならないだろ。 誰が見てるか分からないし、見られたら誤解を受けかねない。 「行くぞ」 ドアを開け、奈央の腕を掴み外に出す。 車のキーを、玄関に置いてある籠から取り出し、俺もドアの外に出て鍵を掛け歩き出した。 「家でお茶でも飲んでく?」 「いや、いい」 散々一人で帰ると喚いていたはずなのに、お茶だなんて、どういう心変わりだ? 「いいから、飲んでけば」 エレベータに向かい歩く俺の背中に、またも奈央からの誘いが掛かる。 「いいから。家に着いたら直ぐに寝ろ」 振り向いた俺に構わず、『遠慮せずにどうぞ』と、言葉が続く。 しかも、無愛想に… 諦めの溜息をつきながら… 立ち止まって俺を見ている。 俺の部屋の隣にあるドアを開け、その扉に寄りかかりながら……。 手だけで『どうぞ』と俺を促す。
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