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「もう大丈夫」
「ダメだっ!」
「しつこいよ」
「可愛くねぇな」
「一人で帰れるって言ってるでしょ」
「まだ熱あるのに何言ってんだ!送ってく」
食事が終わり数十分後。
食器を洗うと言い張る奈央を、具合が悪い時はそんな事しないでいいとキッチンから追い出し、何とか説き伏せたのも束の間。
今度は玄関先で、帰ると言い出した奈央と俺との押し問答が繰り広げられている。
送っていくと言う俺に、それを拒絶する奈央。
「此処から近いんだってば!」
「だからって一人で帰せるはずないだろ。まだ体力だってないんだし」
「ホントに大丈夫!」
「誰かに見られても面倒だから、車に乗ってけ」
「もう! 人の話聞いてよ! 私は断ってるの」
俺の住んでる部屋は最上階。このフロアーには俺を含めて2世帯しか入ってない。
専用のエレベーターがあるから、直通で地下の駐車場まで下りて車に乗り込めば、他人の目も気にならないだろ。
誰が見てるか分からないし、見られたら誤解を受けかねない。
「行くぞ」
ドアを開け、奈央の腕を掴み外に出す。
車のキーを、玄関に置いてある籠から取り出し、俺もドアの外に出て鍵を掛け歩き出した。
「家でお茶でも飲んでく?」
「いや、いい」
散々一人で帰ると喚いていたはずなのに、お茶だなんて、どういう心変わりだ?
「いいから、飲んでけば」
エレベータに向かい歩く俺の背中に、またも奈央からの誘いが掛かる。
「いいから。家に着いたら直ぐに寝ろ」
振り向いた俺に構わず、『遠慮せずにどうぞ』と、言葉が続く。
しかも、無愛想に…
諦めの溜息をつきながら…
立ち止まって俺を見ている。
俺の部屋の隣にあるドアを開け、その扉に寄りかかりながら……。
手だけで『どうぞ』と俺を促す。
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