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促されるままに入った玄関先で、俺の思考は停止した。
「だから近いって言ったでしょ?」
ど、どう言う…事だ?!
奈央は、俺が持っていた車のキーを、指でちょこんと揺らす。
「車、出したくても出せないね」
そう言うと奈央は、俺の足元にスリッパを置いた。
確かに車を出す距離じゃない。
奈央の言う通り、車を出したくても出せる距離じゃない。
此処は公道じゃない。
標識もない。
車は走っちゃ行けない。
いや、此処に持って来ることすら出来ない……建物内だし。
何せお隣なんだから。
「いつまでそこに突っ立ってる気?」
「いてっ!」
耳を引っ張られ、その痛みでやっと俺の頭は動き出した。
「奈央……お前……隣に住んでたの?」
「うん、残念ながら。ほら、いいからさっさと上がってよ」
残念ってどういう事だよ!
そう突っ込む事を忘れ、『あーぁ、ばれちゃった』と、ぼやきながら歩く奈央に続き、部屋の中へと足を進めた。
「シャワー浴びてくるから、適当に座ってて」
リビングに一人取り残される俺。
辺りを見回すと、部屋全体が白を基調に纏められている。
リビングの端には、小さな白いデスクがあって、その上には数冊の参考書が置いてあった。
他にも部屋があるはずなのに、此処であいつは勉強しているのか?
ゴチャゴチャしたものは何もなく、中央にある大理石のテーブルだけが存在感をアピールしている。
それを挟んで置いてあるソファーだけが、この部屋で唯一、キャメルの色を持っていた。
随分とシンプルな部屋だ。
これが女子高生の部屋だとは思えない。
でも物は良い。
このマンションで、しかも最上階に住んでるってだけで、アイツが良家のお嬢様なんだろうと窺わせる。
此処は高級マンションとして有名で、セキュリティーも万全だ。
女の一人暮らしには、持って来いの条件ではあるが……。
にしてもだ!
何でよりによってアイツが隣に住んでんだよ!
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