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「俺がどんな想いでいたか分かるか? 特にあの写真見せられてからはどんだけ焦ったと思ってんだ! 連絡取りたくてもおまえは出ねぇし」
「写真?」
「トボケんなよ。林田に渡した写真だ!! 誰だ、あの金髪ヤローは!!」
「あぁ、アレね」
「何を呑気に 『あぁ、アレね』 だっ!! 随分と親しそうにしやがって」
「仕方ないでしょ? アレしか写真ないのに、由香がそれでいいから寄こせって煩さかったんだから」
「へぇ、なるほどな。それを俺が見るとは知らずに、親しげな男との写真を渡したわけだ。
で、その男とはどういう関係だ? 俺は寛容な男だからな、正直に話せば今回に限り大目にみてやる」
これ見よがしに盛大な溜息をついた奈央が、
「どこが寛容なんだか……」
と嘆いたけど、そんなもん聞こえないふりだ。
「あのね、果てしなく妄想を繰り広げているところ悪いけど、彼とは何もないから」
「何もないのに肩抱き寄せられて頬にキスまでさせんのかっ? つーか、何度もそう溜息つくなっ!!」
溜息つきたいのは俺の方だっつーんだよ。
しかも、大目にみてやるって言ってんのに、誤魔化すならもっとマシなこと言え!!
言葉にせずに反論を繰り広げる俺に、奈央は意味不明な言葉をぶつけてきた。
「私は女だから無理」
「なに当たり前なこと言ってんだよ。周りが放って置けないほどいい女だから、ああ言う変な虫が近寄ってくんだろうが!!」
「だから!!」
一瞬だけ俺に負けじと声を張り上げた奈央は、まんまと俺の勢いを封じ込め、また静かに真相を明かした。
「彼の恋愛対象は女性じゃないってこと」
「…………へ?」
「彼は男性しか愛せないの」
「……や、だって……奈央にキス……」
「ねぇ、敬介? 私が行ってた所は何処?」
「……N.Y」
「そう、N.Y。なら分かるはずよね? ハグが海外では挨拶だってことくらい、大企業の専務であろう人が当然理解出来る範囲内だと思うけど?」
「うっ……」
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