第1章 Vol.1 日常

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「お前、特進コースだろ? 分かんない所は、特進担当の先生に聞けよ」 吸いかけの煙草を、携帯灰皿に擦りつけ、こいつが授業の事で聞きに来たわけじゃないのを知りながら、この場から離れようと足を踏み出した。 「待って、先生!」 「悪いけど、待てないな」 川島の声には振り返らず、扉に向かい歩いていた俺の腕に力が加わる。 引き摺って歩くか? ……って、まさかそんな事も出来ねぇし。 「この腕、離して貰えるか?」 「イヤ…」 俺の左腕に自分の両腕を絡ませ顔を埋める川島に、立ち止まってお願いしても、こいつも必死らしく離して貰えそうにない。 「一体、どうした?」 本当なら聞きたくなんかない。 どっちみち聞いたところで、こいつの願いは叶う筈ないんだから。 「……わ、私…先生が…好きです」 ……やっぱりな。 「悪いが、その気持ちには応えられない」 「今すぐ返事しないで下さい。先生、私の事なんて何も知らないでしょ? だから、ゆっくりこれから私を見て欲しい」 何も知らない? あぁ、知らないなかもな。 でもたった一つ分かることがあんだよ。 それは、お前も俺を知らないってこと。 教師って面をつけた俺しか、生徒であるお前達は知らないんだよ。 でも、それが普通なんだ。 教師なんて職業、生徒の前で言える本音なんて限られてる。 そんな大人に憧れるのは自由だ。 でも、それを自分の願望に乗っけて恋愛まで持ってくな。 生憎、教師以前に俺は、いくら思いをぶつけられても何の感情も湧いてこない。 それでも、こうやって言われてしまえば教師を盾に答えるしかない。 「これから先も、お前を特別な目で見ることはない。俺は教師だ。可愛い生徒の一人としか見れないよ」 こうしてまた、本音を言えず教師として振舞う。 本当は、恋愛なんか出来ない欠陥人間なんだってことを隠して。
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