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「お前、特進コースだろ? 分かんない所は、特進担当の先生に聞けよ」
吸いかけの煙草を、携帯灰皿に擦りつけ、こいつが授業の事で聞きに来たわけじゃないのを知りながら、この場から離れようと足を踏み出した。
「待って、先生!」
「悪いけど、待てないな」
川島の声には振り返らず、扉に向かい歩いていた俺の腕に力が加わる。
引き摺って歩くか?
……って、まさかそんな事も出来ねぇし。
「この腕、離して貰えるか?」
「イヤ…」
俺の左腕に自分の両腕を絡ませ顔を埋める川島に、立ち止まってお願いしても、こいつも必死らしく離して貰えそうにない。
「一体、どうした?」
本当なら聞きたくなんかない。
どっちみち聞いたところで、こいつの願いは叶う筈ないんだから。
「……わ、私…先生が…好きです」
……やっぱりな。
「悪いが、その気持ちには応えられない」
「今すぐ返事しないで下さい。先生、私の事なんて何も知らないでしょ? だから、ゆっくりこれから私を見て欲しい」
何も知らない?
あぁ、知らないなかもな。
でもたった一つ分かることがあんだよ。
それは、お前も俺を知らないってこと。
教師って面をつけた俺しか、生徒であるお前達は知らないんだよ。
でも、それが普通なんだ。
教師なんて職業、生徒の前で言える本音なんて限られてる。
そんな大人に憧れるのは自由だ。
でも、それを自分の願望に乗っけて恋愛まで持ってくな。
生憎、教師以前に俺は、いくら思いをぶつけられても何の感情も湧いてこない。
それでも、こうやって言われてしまえば教師を盾に答えるしかない。
「これから先も、お前を特別な目で見ることはない。俺は教師だ。可愛い生徒の一人としか見れないよ」
こうしてまた、本音を言えず教師として振舞う。
本当は、恋愛なんか出来ない欠陥人間なんだってことを隠して。
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