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「…どうしても…ダメですか?」
「ごめんな。生徒を恋愛対象には見れない」
「生徒は絶対無理? 相手が水野さんだとしても?」
水野!?
何で此処で水野が出てくる?
あいつだって生徒だろ。当たり前のこと聞くなって。
どんなに顔が良くたって、俺から言わせれば所詮ガキ。
それにアイツは勉強以外にあまり興味なさそうだし、対象外もいいとこだろ。
「水野に対しても、そんな感情は持てるはずないだろ。教師なんてやめて、お前に相応しい相手をちゃんと見つけろ。今しかない時間を無駄にするんじゃない」
水野でも無理って言葉は効き目があるのか?
納得したかしなかったかは分からないが、纏わり付いていた俺の腕からゆっくり離れ、顔を上げたその瞳には涙を一杯に浮かべていた。
「悪かったな。週明けからは期末も始る。ちゃんと勉強しなきゃ駄目だぞ」
浮かべていた涙は雫となり零れ落ちると、コクンと頷き、走ってこの場から立ち去っていった。
俺のことなんて何も知らないのに、あんな涙を流せるほど本気になれるもんなのかよ。
そう思う自分と、あんな風に誰でもいいから想うことが出来たら、俺も少しは変われるのか?
ふと頭を過る、らしくない考え……。
あるはずないか。
俺が誰かを好きになるなんて。
あんな一時のあやふやな感情に、俺が流される筈なんてないんだ。
再び誰もいなくなった屋上で、壁に寄りかかりながら2本目の煙草に火を点ける。
肺まで吸い込んだ煙を吐き出すと、ポケットの中の携帯を取り出した。
……コイツでいいか。
苗字を省いた女の名前を適当に選び、メールを手早く打つ。
“今夜付き合えよ”
たった一言で、大人の付き合いをしてくれる女。
「俺にはこんな付き合いが丁度いい」
風に消えいく紫煙を見ながら、一人ポツリと呟いた。
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