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「じゃ、出発するぞ」
「よ~し、いつでもいいよ!」
背中につかまった沙希の無邪気そうな声が聞こえる。
僕はゆっくりと、自転車のペダルを漕ぎ出した。
少し錆びた車輪が軋むけど、今に始まったことじゃない。今までだって、何度も二人乗りに耐えてくれたんだ。今回もきっと大丈夫。
「あ~」
沙希が、口を大きく開けて風を受けているみたいだ。あんまり深く考えないで、思ったことをそのまま実行するのが、いかにも沙希らしい。
「もう少し、家でゆっくりできればよかったんだけど」
「ま、しょうがないよね。けっこう親にも無理言っちゃったからさ」
僕は目を細めた。
昨晩、沙希が僕の家に泊まりに来た。初めてのことだった。だけど、まさかそれが最後になってしまうとは思わなかった。いやいや、まだ最後になるかどうかは分からない。ただ、今すぐにまた、というわけにはいかなくなってしまった。
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