再会

19/22
620人が本棚に入れています
本棚に追加
/217ページ
淳也君と歩いたこの道を、もう何度目だろう、足早に通り過ぎた。 この道を通るたびに、胸がきゅっとなってしまうから、いつも回り道をしていたけれど。 今日は卒業式を終え、クラスの皆で打ち上げをしたせいで帰りはもう12時をまわっていたから、仕方ない。 見上げる木の枝先には、かわいい蕾がぽつりぽつりと見える。 「早いなあ。もうすぐ春か。」 少しずつ寒さはやわらいできたものの、まだまだ夜は冷える。 スプリングコートの前を、両手でぎゅっと閉じて、足早にアパートを目指した。 ふいにアパートのエントランスの壁に、誰かが寄りかかって立っている姿が見えた。 シルエットに、胸がどきっと跳ねた。 まるで金縛りにあったように足がぴたりと止まり、動かない。 ・・まさか・・ね。 ゆるりと、人影が身体を起こして、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。 ・・だって、あの朝、なにも言わずにいなくなったし・・。 すこしずつ近付いてくる人影に、全身が波打つように鼓動をうつ。 目頭が急激に熱を帯びてきて、ぽろっと涙が落ちた。 「卒業おめでとう。」 目の前まで来た人影が、するっと頬に流れる涙をすくうと、優しい瞳で、私を見た。 次の瞬間ばっと視界が暗くなり、身体に暖かい感触が広がる。 「仕事と恋愛の両立はできますか?」 頭から降って来る懐かしい、優しい声に、必死に頷く。 「おつ・・お願いします。」 何とか、言葉にして伝える。 ぷっと、吹き出すように笑いながら、淳也君がゆっくりと私の頭を撫でた。
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!