イチ

5/21
前へ
/140ページ
次へ
「あの、僕は…」 「俺の部屋の前で倒れてたんだよ」 「え」 「覚えてない?」 「すみません…全然」 言うとそいつはおもむろに布団をはがし、ベッドから下り始めた。 「動いて大丈夫?」 「はい」 「なんか食べる?」 「いえ、大丈夫です。お世話になりました」 ぺこっとお辞儀をして玄関に向かう。礼儀正しい奴だな。 その礼儀正しさと、ほつれたジャージから出ている白い糸のだらしなさがアンバランスで、やっぱり笑えた。 (あれ…そういえばこいつどうやって帰るんだ?) 荷物は持ってないみたいだし、ジャージのポケットにも財布や定期が入っている気配はなかった。 …まさか。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2672人が本棚に入れています
本棚に追加