イチ

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「もしかして…家出?」 「っ!」 靴紐を結ぶ手がびくりと動いて止まる。おいおい、本気かよ。 「どこ行くつもり」 「適当に野宿します」 「駄目だよ、風邪ひく」 「貴方には関係ありません」 そのまま出て行こうとするから、俺は思わずそいつの腕を掴んで引き止めていた。 「…どうして構うんですか」 「んー、先生だからかな」 「先生…?」 「そ、高校の化学のセンセ。だからこういうの、見過ごす訳にもいかないんだよ。立場上ね」 暗い玄関でも、そいつの目が見開かれたのがよく分かった。 こんなユルい奴が教師だなんて、とか思ってんだろう。そんなのは承知で教師やってんだよ馬鹿め。
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