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綺麗に返り咲いていた桜も、時間と共に微風に乗って華麗に舞うように散っていく五月上旬。暖かい空気も次第に上昇し、周りの木々の変化を感じると、時間の経過を強く実感させられる。
そんな中、俺は馴染みある人と共に校舎内で、男と男のプライドと命を賭けた壮絶な鬼ごっこを繰り広げていた。
「しつこいぞ、鬼瓦!」
「先生と呼ばんか! 水野、今日という今日は許さん! 遅刻魔は念入り指導してやるぞっ!」
鬼瓦に捕まれば最後、今日という大切な一日が恐怖の説教と、白麗聖幸学園全体を一人で掃除といった奴隷のような待遇を強いられ、貴重な一日が俺の人生からデリートされてしまう。
そうは行くかっ! 必ず逃げ延びて、楽しいスクールライフを満喫してやる!
「教室に逃げ込めば、難は逃れる筈だ!」
「足だけは一人前に速いな! だがしかし――」
鬼瓦の声が消えたと思った瞬間、襟を掴まれ、その反動で俺の首は一瞬だけ締め付けられ、激しく咳き込みながら地面に投げ倒される。
「足は俺の方がまだ速い。さぁ、水野緋人(みずのあかと)よ……生徒指導室でみっちりと指導してやるぞ!」
「ゲホッ!? この――悪魔っ!」
さようなら、俺のスクールライフ……明日はもっと良い一日になると嬉しいな……とほほ。
後一歩のところで鬼瓦に拉致られた俺は、生徒指導室に軟禁され、奴の監視の下で反省文を書くように強要される。
「早く書け。今日はこれぐらいで勘弁してやる」
「お前、誰だ!? 俺の知ってる鬼講師(きこうし)じゃないな!?」
「ふんぬっ!」
大きくて分厚い握り拳が、何の音沙汰も無く俺の頭部を削り取るように殴り抜かれる。鬼瓦は知っていた……拳骨は直撃させるよりも滑らすように殴る方が痛い事を――
「ぐああぁぁぁぁ……!?」
俺は、あまりの激痛に悶絶し、頭部を抑えながら地面にのたうち回る。涙腺が崩壊したかのように、涙が止まることもなく流れ出てくる。
「下らん事をほざく前に、さっさと書け!」
やはり、いつも通りの鬼講師だった。それにしても、今日に限って反省文だけとは、特別なイベントなんてあっただろうか? まぁ、そんな事はどうでも良いか。
「早く書いて、教室に行こう」
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