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頑固者バザル
ジグの住む国より遠く遥か…
山深い森の中…
ひっそりと建つ洋館にバザルは住んでいた。
何代も続く旧家の家系。
昔は使用人を多く抱え、
果樹園の経営で繁栄していたらしいが…
今は息子と2人つつましく、
過去の財産で暮らしている。
息子が2歳の時に妻が他界し、
それ以降は
地元に古くから伝わる宗教にのめり込み、
最愛の妻を亡くした悲しみを
癒やす日々を送ってきた。
…
[キマ神]
…
生命そのものが神だと説くその原始的な宗教は、
全ての生命は1つであり、
その一部が個別に解き放たれ
この世界を構成してるのだと教えていた。
よくある教義だが、
そのシンプルな理解しやすさから
古来より信者も多い。
…
ある日、
バザルは河辺でひとつの石ころを拾って来た。
するとその石を祭壇に祭り、
それを信心の対象とした。
息子はバザルの行動を訝しんで尋ねた。
「神の啓示があって、手に入れた石なの?」
「いや。なんのヘンテツもない石さ」
「…そんな石ころ…なんでおがむの?」
「祈る対象なんて何でもいいのさ。
祈る姿勢が大事なんだ。
この石ころは
祈りを集中させる拠り所にすぎん。
神はその先にいる…」
「…でも…石像とか神の姿をおがむ方が…」
「ふふふ…
石像だって、元々はただの石さ。
ただ気持ちが伝わり易いと思って
姿を彫りだしてるにすぎん。」
「…確かにそうだけど…」
バザルは
キマの教えを自分なりに解釈してるが、
その考え方は、より太古の信仰に近いと言える。
「でも…父さん。
なぜ…キマ神は…
角のはえた恐ろしい姿をしているの?」
「…神の姿なんて…人間の考え出した姿さ…」
「…」
バザルはニヤリと笑うと、
祭壇に手を伸ばし、石ころを手に取り
息子に放った。
「‼‼」
息子が手にした石ころには、
いつの間に細工されたのか…
禍々しいキマ神の姿が彫りこまれていた。
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