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「皆さん、落ち着いてください! 僕は一年四組の龍宮大和です。これからあの塔の下にある国に向かいますが、決して散らばらないでください! 幸いここは国からそう遠くないので、魔物と出会う確率は低いですが、万が一のことがあります!」
龍宮大和は異常と言ってもいい程カリスマ性がある。父は大手企業の社長。母は世界的に有名な学者。その間に生まれた彼は、既に社長を継ぐための帝王学を学んでおり、高校に通っているのは人間関係を学ぶためだそうだ。
俺の住んでいる町の住人なら誰でも龍宮を知っている。親のせいで元々龍宮は有名なのだが、彼の完璧すぎる性格がさらに拍車をかけた。
道端に落ちている空き缶はゴミ箱へ捨てる。ドブ掃除は近所一帯までする。不良に絡まれている人が居たら間に入って撃退する。龍宮が成し遂げたといわれる善行は数え切れない。
礼を言われたところで決していい気にならない。決まって「家訓だから」と返す。龍宮家の家訓は『一日百善』だそうだ。
心に正義を宿しており、おまけに強い。龍宮はまさに物語の主人公といったものだ。
ところが、龍宮も何も全ての人に愛されているわけではない。……というのも、龍宮はモテるのだ。それはもう、軽くハーレムを作れるくらい。そもそも、あんな完璧超人に振り向かないという方が無茶だ。
ここまで言えばわかるだろうが、要するに龍宮を嫌う者のほとんどが男性であり、原因は嫉妬だ。
俺と直人も龍宮のことはあまり好いてない。モテないとか関係なしに……いやまあちょっとはあるけど。
『おい、あいつ龍宮だろ?』
『ああ、あいつなら問題ないんじゃねえか?』
周りも龍宮のことを知っているらしく、皆龍宮に任せるようにしたようだ。早くも高校全体にまで龍宮の噂は広がっていたらしい。
「宗一、どうする?」
「そりゃあ……ついて行くしかなくね?」
ついて行くにしろ、しないにしろ、向かう先は変わらない。俺たちは龍宮を先頭に、長い縦の列を作って歩き始めた。
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