嗤う男

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鈍い朝の光が人気のない歓楽街を照らしている。 飲み屋街と風俗街の間。 ところどころ歯が抜けたように空き地になっている。 何十年か前の大戦で一度全てを失ったこの街は、そこに集まる者の想いに引かれ、曲がりくねりながら再生していた。 そんな街の外れ。ビルから一人、よろよろと帽子の男が出てきた。 男は朝の光を忌々しそうに見上げると、ビルの方を振り返った。 「わるいタキさん、今日も寝ちまって」 「ええ、ええ。また顔出してよ」 2階のバーに手を振ると、男はおぼつかない足取りで歩き出した。 しばらく歩き、男は何かに気付き立ち止まった。 だるそうにホンブルグを右手で押さえると、雑居ビル入口の古びた階段に腰を下ろす。 雑居ビルの隣は空き地だ。 その入口に、黒いスーツの男が 三人立っていた。 異次元の髪型をした若者達は、 タバコの煙を吐きながら話しこんでいる。 「マサトさんもホンマ好きじゃねぇ」 「じゃのー。ま、ワシらはお楽しみに混ぜてもらうだけじゃしー」 「ほうよ。いつも通り店に連れ込んでようけ飲ませてから」 「動けんようにして全員で」 男達が声を殺して下品に笑う。 「飽きたら売り掛け吹っかけて風俗に売るんじゃし」 「ま、いつも通りじゃわ」 また下品な顔で男達が笑っている。 空き地の奥はビルの陰になって見えないが、別の男と女性の声がかすかに聞こえていた。
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