牛とわたし

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私達は互いに喜んだ。ピーちゃんの存在を喜んだ。庭ではピーちゃんが、こちらに向かって微笑んでいた。  そんなこんなでアパートの方々に牛乳を無料で振る舞うなどしていたらピーちゃんは評判になった。いつの間にか可愛い可愛いと騒ぐ女子高生などもピーちゃんにたかり始めた。  ピーちゃんは人気者になったのだ!  しかし、悲劇は起きた。  朝のことである。いつものように水と干し草と甘栗を私はもっていった。普段ならピーちゃんは黒目がちの瞳で私を眺め、「ピーぃぃぃぃっ」と喜びの感情をキュートにキュートに表現する。  しかし、その日はいつもと様子が違った。  二つの瞳は猛烈に充血していた。あれえっ。おかしいな。鼻息が荒く、全身から障気のようなものが湧いて出ている。そして最も衝撃的だったのは、その頭部から猛々しい角が生えていたことである。  「ぴ、ぴ、ピーちゃん……だだだだ大丈夫か?……」  「がるるるる」  もはや牛ではなかった。土佐の闘犬のような趣があった。  「がるるるる」  「……ピーちゃん!俺だよ……わかるか?……いつもおいしいもん持ってくるお兄さんだぜ……?」  「がるるるる」  あきらかに様子がおかしかった。……。  「がるるるるがるるるる」  おや。と思った。もう遅かった。猛烈な打撃。衝撃。おひょーーーーーッ。死ぬるぅぅぅぅぅ。  「ドン!!」  気づいたら夜だった。意識がなくなっていたようだ。全身に走る激しい痛み。俺は突進されたのか。ピーちゃんは。どこへ。………。  アパートはところどころ破壊されていた。私は救急車で搬送された。  真相は、定かでない。  しかし、一つだけ私に言えることは、人気者ほど抱える苦悩は大きいということである。………。  不幸中の幸いか、私は牛乳を沢山飲んでいたので、医者からは複雑骨折の回復は速い、とのことだった。 哀しい。
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