26人が本棚に入れています
本棚に追加
だがそこで満足してしまったのは失敗だった。結局彼女の声は聞けなかった。
というわけで、次の日も
「今日は雨だね。今週の天気ってどうなるかな」
と話しかけた。直後、彼女は携帯電話を取り出し、アンテナを立てた。
「本格的な梅雨入りとなりました。今週は全国的に雨でしょう」
携帯電話から、眉毛の太いあの気象予報士の声が聞こえた。ワンセグ機能だ。この日も彼女の声を聞くことはなかった。僕の心も梅雨入りした。
僕の自慢はタフなハートだ。次の日もダメ元で話しかけた。
「そういえば宮原さんって何人家族なの?」
宮原さんはまた携帯電話を取り出した。目付きは悪くないが妹っぽい子と、ご両親と思わしき人が宮原さんと一緒に表札の横に立っていた。携帯万能だな。
翌日も声をかけた。もういっそダイレクトに
「宮原さんの声、聞いてみたいな」
と言ってみた。宮原さんはしかめっ面をよりしかめた。そしてメモ帳を筆箱から取り出し、なにかを書き出した。
『絶対に笑わないって約束してくれる?』
そう書かれたメモを受け取る。可愛らしい文字だった。キュンと来た。
最初のコメントを投稿しよう!