ーーフェール街にて

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ーーフェール街にて

「えっと……ココどこだったっけ」 そう言って、セイトは首を捻る。古ぼけたレンガの家々。ぬかるんだ地面。以前ここに来たことは覚えているが……。 「フェール街ですよ」 「ああ、そうだそうだ」 時刻は夜更け。窓を見ると、大体の建物の明かりは消えていた。 「…………」 セイトの質問に答えると黙りこむ。森では容易く道の把握ができるのに、何故街の名は覚えられないのか。理解しがたい。 月は冷々と彼女らを照らす。時折、建物の合間から、すきま風が入る。空気もひんやりとして肌寒い。 今度はミスティが前を歩き、少年の家を目指す。細い道を何度か抜けると、誰かが目の前に立っていた。 「あっ」 その姿が分かると、彼女は走り出す。 「おい、どうしたっ」 急に走り出したから、驚いたのだろう。ミスティの横に並び、セイトは尋ねる。 姿を見失わないよう、前をしっかり見据えながら答える。 「あの時の少年です。夜は外に出ないよう言ったのに、何かあったのかもしれませんっ」 「あいつかっ」 何故、少年は逃げたのか。分からない。けれど、彼にツキクサを渡さねば意味がないのだ。 どれくらい走っただろう。だいぶ、月は動いている。とうとう追いついた。 「どうして、こんな所にいるの」 「ごめ……んな、さい」 少年は、両目に涙をいっぱいに溜めていた。
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