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『くっ、我々もここまでか……』
地を多い尽くすほどの魔物の大群を前に、誰かがそう呟いた。
『諦めるなっ! ここで食い止めなければこの世界は終わるんだぞ!?』
隊長格と思われし人が、疲労困憊した兵たちを鼓舞するように叫ぶ。
だがその兵たちも既に数少ない。一万を優に超えるだけいた彼らだったが、今では百人に満たない。 この人数では、あれだけの魔物を倒すことなど、無理にも等しいだろう。
『キュオォォォオッ!』
魔物たちが勝利を確信したように声をあげ、進軍を開始する。 獣のような彼らだが、その目には歓喜の色がありありと浮かんでいた。
そして魔物が兵たちを一人残さず喰らい尽くさんと、各々の異形の口を開いた時だった。
『神々に与えられしこの力、今贄をもって破滅の業とす!
《シャイニング》!!』
兵たちより遥かに若い声が戦場に響き渡る。
その言葉が終わるや否や、目を開けていられないほどの閃光が宙を駆け、地を這った。
『うぉ!?』
何が起きたかわからない兵たちや隊長は咄嗟のことにも関わらず目を瞑り、結果としてその光が彼らの目を灼くことはなかった。
『何事だ……、なっ!?』
いち早く目を開いた隊長は、目に飛び込んできた景色に思わず絶句する。
そのあとも兵たちは彼と一様の反応を見せた。
それもそのはず。
彼らを苦しめてきた魔物が、一匹も残らず消え去っていたからだ。
死骸も、彼らがいた痕跡も見当たらない。
その驚愕の事実に、兵たちは必然的に術を唱えた人に目を向ける。
『すまない、僕が来るのが遅れたせいで、こんなにも犠牲を出してしまった』
『い、いえ! 駆けつけてくれたこと。 それだけで私たちは救われました!』
突然の謝罪に慌てる隊長。
彼が次の言葉を言う前に、その少年が口を開いた。
『すまないが依頼が忙しいから戻らせてもらいます。 お疲れさまでした! 転移ッ』
彼は言うや否や、隊長の前から姿を消す。
しばらく呆然としていたが、彼ははっとすると後始末を兵たちに命じた。
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